またしても車を物色中のあたくし。「この前は一度は乗ってみたいフランス車」ブームが脳内全快だったもんでやんすから、映画のブームでカローラ状態になっちまったプヂョーを避けて、稲垣吾郎が事件を起こしたことで有名なシトロエンに決定しやした。ところが一転して、最近はウィンタースポーツ・ブームが脳内に到来。思い起こせば10ウン年前、世間ではユーミンが「ゲレンデのカフェテラスでぇ~」なんて唄いながら、白銀の世界を若いカップルがお手を繋いでレッツ・スキー!な頃、貧乏学生のあたくしはトビ職やりながら学資をためていたってな四畳半フォークなオハナシだよ。
「俺さぁ、スキー○級なんだよねぇ。就職決まらなかったら、インストラクターになろうかなー。」
なんて江口洋介の影響を受けたロン毛(長髪ではないんでやんす。あくまで、ロン毛。)をサラサラさせてやがったキャンパス・ジゴロどもを横目に、
「あたくしはさぁ、溶接とクレーンの免許持ってやがるんだよねぇ。就職決まらなくっても、食い扶持には困んねぇんだよねぇ。」
これじゃぁ、バブルの世界を軽やかには生き抜けねぇって具合だよ。「けっ。大学生ってのはよぅ。勉学と勤労。これに決まってるじゃねぇか。」と突っ張っちゃぁみたものの、人知れず指を加えながらアメリカン・クラッカーみてぇな大粒の涙で枕を濡らした夜もあるんだぜ。


そして、アメリカン・クラッカーのように泣く大左ェ門。
ひとっつ、ひっとよぉりちっからぁもっちぃ

柔の道はチビシイだス
そんな西側世界にあるまじき禁欲的な大学生活を送ったあたくし、今年を「ウィンタースポーツへの復習元年」といたしたい。初心者をバカにしねぇゲレンデについて、情報大募集中だよ。あたくしは。
そんな学生時代、興味と言えば楽器と車。そうは言っても貧乏学生さんが車なんぞ持てるはずもねぇ。たまぁにトモダチの車転がしてみたり(ブルーバードのターボ。なつかしぃ。)トビのオヤジの車を運転手として転がす位が関の山ってな具合だ。それでも随分ワクワクしたもんでやんすけどね。トビのオヤジの車は、「いつかはクラウン」。しかし、運転の荒い神風六十代の運転によって、あっちゃこっちゃがへこんでるかつてのVIPカー。そろそろ買い替えだね、ってな時に、オヤジは言いやした。
オヤジ: おう。つ。レジェンド、ってのは、どういう意味だ?
つ。 : 伝統とか、そういうカンジでやんしょ?
オヤジ: 光るアレか?
つ。 :そら、電燈だよ。オヤジ。
オヤジ: 俺が小学校中退だからって、おめぇ、バカにしてやがるな?(ごつん)
本当に小学校中退かどうかはわからねぇまでも、生粋の叩き上げのオヤジ。MS-DOSしか動かねぇ98ノートに電話線くっつけて、当時としちゃぁ珍しいオンライン・バンキングなんかやってるってのに、横文字はさっぱり。「プライバシー」を新しい料理用具だと信じて疑わなかったお茶目な六十代。
で、納車されたのは何のこたぁない、ホンダのレジェンド。なかなか落ち着いた、それでいてオッサン臭くねぇ良いカンジの印象でやんす。早速あたくし、新宿のマンション建設現場までの運転を仰せつかったてってな寸法で。クラウンが良い車だってのはわかってたんでやんすが、そこは新車。気分も爽やか、走りも静か。ラジオしかなかった車にカーステがついていやがるし。これで「芥川タカユキの演歌だヨ!」ばかりを聞かずに済むってなもんだ。走り出してすぐ、クラクションを押す位置に妙な金具を発見したあたくし。何だこりゃ?と思いつつも、まぁ、新しい車だからなんかに使うんだろうくらいにしか思ってなかったんでやんす。その日の現場の帰り、渋滞の首都高速で後部座席からオヤジがあたくしを呼びやした。
オヤジ: つ。おい、そのダッシュボード開けてみろ。
つ。 : はい。開けやした。
オヤジ: マイク出せ、マイク。
つ。 : マイク?
すると中から出てきたのは、カールコードのバスガイド用マイク。一体こんなもの、何に使うんだと思ったあたくしにオヤジは一言、
「ステレオに挿せ。」
探してみりゃぁ、付いてやしたよ。マイク端子。なんでカーステにマイク端子?と思うあたくしに畳み掛けるように
「このテープ、かけろ。」
ラベルも何もない、まっさらなTDK60分ノーマル。言われるがままにテープを差し込んだあたくしの聴覚をそこそこの大音量で奪ったのは、鳥羽一郎の「兄弟舟」でやんした。
日焼けした顔を更に赤らめて熱唱する六十代。聞きなれたとは言え、これまではラジオにあわせて口ずさむだけでやんしたが、新車レジェンドからは前後左右のスピーカー4発からオヤジの歌声が。こらえること約4分。一曲終わったオヤジは、ゴクリとウーロン茶を口に運び、汗を拭いて癒すいやす。すると数秒間のブランクの後に、またイントロが...
・・・繰り返されることさらに数回。ああ、このテープは、これしか入ってねぇんだ。あたくしはこの猛暑の中、ずっとこの唄を聴かされるんだ、と朦朧とした意識の中で諦めかけたその時、ちょっとしたノイズを再生A面が終わりを告げたのでやんすが、貴君らもご存知の通り、テープの終わりは突然、音もなくやってきやがります。
型はぁ、古いがーぁ。時化にはぁー、つよ...(テープ終了)
ん”ん”-ん。ゴクリ。ゴクゴクゴク。
絶対、このオヤジはテープのひっくり返る瞬間を練習したぜ、ってなリズムの合い方だよ。オートリバースのタイミングで汗拭いてお茶飲んで、そんでもって音の入りのタイミングにぴったり合わせる芸当。3日は練習したはずだね。それも、猛練習のはずだね。
そうして繰り返される兄弟舟と猛暑のせいでオーバーヒート気味のあたくしのヘッドレストから、ごついオヤジの腕が伸びてきやした。
オヤジ: お前も、歌え。
つ。 : いや、運転中でやんすから。鼻歌とかでいいですかね?
オヤジ: マイク、あるんだから使えよ。マイク。
つ。 : いや、でも、両手ふさがってるし(マニュアルミッションの車でやんした)
オヤジ: そこに、ひっかければ良いだろう。バカ。
そこって、あ?この金具?あー。フック?マイク引っ掛けるフックだったんでやんすか...。
上司に逆らえないサラリーマンよろしく、オヤジの言いなりでもってフックにマイクを引っ掛けて、ハンドルに顔を近づけて唄うマヌケなあたくし。マイクを通したあたくしの声より、後部座席でハモってるオヤジの声の方が、はるかにデケェ声なんでやんすが、そこはそれ、共同作業ってなイメージでもって円満な車内。ひとしきり唄い終わっても続く次なるイントロ。あたくしは思ったね。
平和島料金所を降りて、近づく家路。混雑のせいか、もう夕日が傾いてるってな時間でやんした。夕日を眺るオヤジ。オレンジ色の陽の光は、60年以上を生きた男がたたえる皺の一つ一つを、それがあたかも年輪であるかのように見せるグッと来る演出をしてくれるってなもんです。
オヤジ: おい、つ。
つ。 : へぇ。
オヤジ: 良い車だろう?え?こういう車を買えるようになるまで、色々あったんだぜ。俺も。
つ。 : はぁ...。
オヤジ: そういう、苦労の積み重ねってやつか?そういうの、喋くるのは性に合わねぇんだけどよ。
まぁ、なんてんだ?この車、俺の「兄弟舟」みてぇなもんだ。そう思わねぇか?
つ。 : え?兄弟舟...でやんすか? あぁ...まぁ、そんな風にも、まぁ、なんてんでしょうね。まぁ、そんなカンジで...
オヤジ : おめぇ、この車のこと、これから「兄弟舟」って呼べよ。いいな?俺とお前の、兄弟舟だ。
つ。 : え?あたくしも?
あたくしたちを乗せた兄弟舟は、その後の4年間ほどを建設現場とバブルの波の谷間をかいくぐったのでやんすが、ある日トラックに追突されて都会の海に「沈没」と相成った次第でやんす。
さて、ここらで本題。
酒飲みながら聞くのに最適なアルバムのリクエストを頂戴したので、今日はコイツをご紹介だよ。
理屈は今日は抜きでやんす。
あたくしが中学生の時に、ピーター・バラカンが紹介してた、あまり耳慣れないアーティスト。極端にしわがれた声で、ちっぽけな人のちっぽけな機微が唄われてるだけの曲がずらり。よく、この人は酒に合う、と言われたりしやすが、逆。酒がこの人を放さない。ジャズなのかブルースなのかわからないジャンルでやんすが、あえてジャンルを決めるなら、子守唄、としておきやす。大人向けの。
レコードレーベルが80年代の映画出演以降に変っちまって、なんとなくロック色が強くなり、ロッド・スチュワートに名盤「Rain Dogs」の「Down Town Train」をカヴァーされて(これは名曲でやんす)、一躍有名人になっちまいましたが、あたくしとしては初期のアサイラム・レーベルにいた頃の方が、子守唄の度合いが高ぇって意味でオススメでやんす。あまりベスト版はオススメしないようにしてるんでやんすが、ちょいと灰汁が強い御仁なので、まずは初期のベストをオススメする次第。
不覚にも泣いちまったのが14曲目の「Ruby's Arms」。惚れてた女のどこを思い出すか、って時に、自分を抱いてくれてた腕を思い出しちまうっての、ちと辛すぎやしたね。これがおっぱいとかケツだったら、唄にはならねぇけどね。あー、良いオンナの前ではいくつになってもガキでいようじゃねぇかと。良さがわかったら、ちょいと歳とったってことでもあるんですがね。
世話になった溶接屋のオヤジに捧げます。合掌。
気に入ったね。 良い女の前ではいくつになってもガキでいようなんて。 いいこころがけ。 女は男の子供っぽさってものにどうしても惹かれてしまうものでね。望めるなら男にもそういう余裕があってほしいがね。 ふっふっふ。 今夜もひとりで酒のむぜ。 合掌
なんだか、枯れきってアガっちまった錦糸町のスナック経営者のようなコメント、ありがとうございやす。
少年のような心、とガキってのは、一線ひかねぇといけねぇやね。あたくし、いまだにウンコとかシッコの話題が大好きでやんすから。
それに惚れる女がいるとも、思えねぇんだよね。でも、下品ネタだけは、やめられねぇんだよな。
錦糸町ママの一人酒に、乾杯&合掌。
成仏してくだせぇ。
人生ってのはありがとうの連続ですね。
人に感謝して、いまある自分もそのおかげ。 そんな考え方をまっとうして生きて行きたいものです。 いままで出会ったどんな人々や出来事でも、良い思い出としてとらえていて、感謝すらしている。 すばらしいよ。 あらためて思ったので一筆。